研究分野

素粒子から宇宙まで、
未知なる原理を追求する。

物理学は、様々な自然現象を対象としている学問です。はるか昔から、人々は地上や宇宙で起こった現象に興味を持ち、そのメカニズムや法則を発見してきました。現代でも未知の自然現象は数多くあり、研究者はそれらの現象を解き明かそうと日夜研究に没頭しています。近畿大学理工学部理学科物理学コースでは、物体の構造や性質を研究する物性物理学、物質の根源を探究する素粒子物理学、また広大な宇宙の謎に挑戦する宇宙物理学など様々な分野の研究が行われています。

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石橋 明浩 井上 開輝 加藤 幸弘 近藤 康 堂寺 知成 笠松 健一 段下 一平 西山 雅祥 増井 孝彦 三角 樹弘 矢野 陽子 ⼤村 雄司 信川 久実子

一般相対論・宇宙論:石橋 明浩 [教授]

一般相対論と宇宙

宇宙の起源とその進化といった宇宙全体のダイナミクスや、ブラックホールと特異点など、時空の大域的構造に関する問題を、主に一般相対性理論をもちいて解き明かす研究をしています。特に重力を含む自然界の全ての力を統一的に理解する試みである超弦理論は、宇宙がミクロには4次元よりもずっと多くの拡がりを持つ高次元時空として構成される可能性を示唆しています。本研究室では、この様な究極理論の構築を視野にいれ、高次元に特有な物理現象を重力理論・宇宙論の観点から探る目的で、高次元ブラックホールの基本性質や高次元理論に基づく宇宙モデルの研究を行っています。

高次元時空では、ドーナツ型をしたブラックホールなど、豊富な種類のブラックホールが存在し得る。どんな性質のブラックホールが可能かは、時空次元や対称性にも依存する。この様な高次元ブラックホールが安定かどうかの問題は、未だ十分に調べられていない。ドーナツ型のブラックホール(左図)は、不安定性により、デコボコしたブラックホール状態(右図)を経由して、さらに異なる終状態へとダイナミカルに変形してゆく可能性がある。

宇宙論:井上 開輝 [教授]

理論と観測の合わせ技で
宇宙最大の謎を解き明かす

宇宙論研究室では、宇宙における未知の物理法則や物理メカニズムを解明するため、理論及び観測の両面から宇宙論的スケールの様々な現象について研究しています。特に、一般相対論的効果による光(電磁波)の経路の曲がり(重力レンズ効果)や光のエネルギーの変化(重力的赤方偏移効果)に着目し、理論モデルと観測のシナジーにより宇宙モデルを検証しています。近年はアルマ望遠鏡やすばる望遠鏡による観測的研究に力を注いでおり、ダークマターの空間分布、超巨大低密度領域における銀河進化、深層学習による天体探査、銀河形成に及ぼす活動銀河核(AGN)の影響など、多岐にわたる研究を行っています。

ALMA望遠鏡で観測された4重像クエーサー(緑色)と、視線方向のダークマターの質量の疎密。白っぽいオレンジ色は高い密度、黒っぽいオレンジ色は低い密度を表す。

宇宙論研究室

物性理論:笠松 健一 [教授]

極低温の原子気体が示す量子多体現象の解明と制御

ナノケルビンという非常に低い温度領域まで冷やされた原子の気体はボースアインシュタイン凝縮という相転移を起こします。このボースアインシュタイン凝縮体における量子多体効果(特に超流動現象)を中心に量子凝縮系の物性に関する理論的研究を行っています。この系の特徴として、(1) ミクロな量子現象をマクロなスケールに出現させる (2) スーパークリーンな理想系である (3) 系のほとんどすべてのパラメータを自由自在に変調できる (4)量子光学の技術により、巧妙な量子凝縮状態の制御が可能である、などの優れた性質を持っている魅力的な人工物質です。これらの利点を利用して、種々の思考実験の実現や量子多体系の物理を基本的な立場から検証することが可能となり、また量子計算機実現などの応用面でも注目されています。

回転するボースアインシュタイン凝縮体における量子渦格子形成のダイナミクス

物性理論研究室

素粒子実験:加藤 幸弘 [教授]

高エネルギー粒子加速器で、宇宙の創生に迫る!

宇宙はビッグバンとよばれる高温高密度状態から誕生し、時間の経過とともに空間が膨張していると考えられています。宇宙が誕生したときはどうであったかを地上で研究するには、どうすればよいのでしょうか? 陽子と反陽子、電子と陽電子を粒子加速器で高いエネルギー状態にして各々を衝突させると、一瞬の間宇宙誕生時に近い状態にすることができます。この状態から生成される様々な粒子や反応を調べれば、宇宙が誕生した様子を予測することができるのです。このような研究ができる、電子・陽電子衝突型加速器(ILC)の実現に向けて、測定器の開発を世界中の研究者と協力して行っています。

次世代電子・陽電子衝突型加速器(ILC)の完成予想図

素粒子実験研究室

量子制御:近藤 康 [教授]

未来のコンピュータ、量子コンピュータの研究

回転下の超流動ヘリウム、超低温での磁性、シリコン表面の研究をSQUID、NMR、STM等の様々な実験手法を駆使して研究してきました。超流動は量子力学的な効果が巨視的(人間が実感できる大きさ)な系に現れる非常におもしろい現象です。STMを使えば原子を直接「見る」ことが可能です。現在は高分解能NMR装置を使って将来のコンピュータとして期待されている量子コンピュータの研究を行っています。単なる理論にとどまらず小規模ですが実際に動作する量子コンピュータを用いて量子アルゴリズムを実装しています。また、量子コンピュータ研究のためのNMR装置の開発も行なっています。

上部は測定も取り込んだ量子テレポーテーションを行うための量子回路で、下部はNMR量子コンピュータで行った場合の測定結果です。

量子制御研究室

ソフトマター物理学:堂寺 知成 [教授]

ソフトマターのタイリングとパターン形成

ソフトマター物理学は、20世紀末に成立した新しい物理学の1分野です。ソフトマターとよばれる物質群には、高分子、コロイド、液晶、界面活性剤、生体物質などがありますが、本研究室ではソフトマターの自己組織化現象に注目しています。自己組織化は生命現象の重要な性質であり、同時に分子をデザインしてさまざまな機能性材料を構築する手段と考えられています。 本研究室では計算物理学的手法を多用しながら実験家と共同しつつソフトマターの自己組織化の研究に新領域を創出することを目標として研究を行っています。これまでアルキメデス相、準結晶相、メゾスコピックダイヤモンド相、共連続相など、常識を打ち破る、しかも数学的にもエレガントな構造を次々発見し、研究を進めています。ソフトマター物理学だけでなく、固体物理学、光学、ナノテクノロジー、結晶学、数学、化学との境界領域を横断的に研究することも本研究室の特徴です。

高分子準結晶:高分子混合系で金属系の100倍のスケールの準結晶構造を発見しました。詳しくは次の記事をご覧下さい。
(参考:http://focus.aps.org/story/v19/st15及びhttps://academist-cf.com/journal/?p=6516)

ソフトマター物理学研究室

生物物理学:矢野 陽子 [教授]

生命現象を原子レベルで理解する

生命活動を担うタンパク質はアミノ酸が1次元のひも状に連なった分子です。例えばアミノ酸が100個連なると、3の198乗通りの立体配置が考えられますが、生体内のタンパク質は一瞬にして固有の立体構造をとり、その機能を発揮しています。現在のところは、アミノ酸の配列から立体構造を予測することは困難ですが、アミノ酸には極性を持つもの(水に溶けやすい)と持たないもの(水に溶けにくい)があり、水の中では大抵、非極性の部分を内側に折り畳んだ構造をとっています。ところが、空気に触れると、非極性の部分を外側に出すように変性します。我々は、スプリング8の世界最高輝度のX線を使い、このような変性過程で起こる構造変化を原子レベルで観測することによって、タンパク質の立体構造形成のメカニズムに迫ろうとしています。また、タンパク質の動きを捉えるための実験手法自身の開拓も行っています。

タンパク質が気液界面で構造変化を起こす様子。青:正電荷、赤:負電荷、緑:非極性 (Yano et al., J. Phys. Chem. Lett. 2011, 2, 995)

生物物理学研究室

素粒⼦物理(理論):⼤村 雄司 [准教授]

素粒子標準理論を超えた物理の探索

我々の宇宙には4つの力とレプトンやクォークといった素粒子が存在します. それらを取り巻く物理には未だ未解決な問題が数多くあり、例えば弱い相互作用のスケールの起源や、なぜ素粒子が世代構造を持つかといった謎は未だ解明されていません。さらには宇宙に数多く存在する暗黒物質の正体は何かといった問題もあります。これらの問題を解決するには、我々の未だ知らない新物理を明らかにする必要があります。本研究室では、具体的な新物理を考えることで素粒子物理と宇宙の謎がどのように解決されるかを最新の実験結果と照らし合わせ研究し、実験における検証方法を探っています。我々の知らないミクロな世界には何があるのか。宇宙初期には何が起こったのか。未だ未解明な素粒子を取り巻く物理を解明すべく、幅広い可能性を考え新物理の検証方法を探究していきます。

既に発見されている素粒子と新物理の可能性(Xという新粒子)

素粒子現象論研究室

量子多体物理学:段下 一平 [准教授]

量子多体系を記述する理論手法の開発とその応用

物の性質を対象とする物性物理学の中で、量子力学的な性質が顕在化しているものに興味を持って研究しています。例えば、固体中の電子集団や液体ヘリウムの性質は量子力学に従う多体系であり、量子力学の法則を使わずには説明できません。これらの物質では、量子性と相互作用の協奏によって、超流動、超伝導、量子相転移、多体局在など、さまざまな興味深く非自明な物理現象が現れます。本研究室では、理論物理学の立場から量子多体系を調べ、既存の物理現象の深い理解と新奇な現象の発見を目指しています。冷却気体を用いたアナログ量子シミュレータ開発を理論面からサポートするという、ユニークな研究も行っています。

量子多体系の時間発展を記述する手法のグラフ表示。

量子多体物理学研究室

生命動態物理学:西山 雅祥 [准教授]

生体分子機械の動作原理の解明

私達の体の中では、タンパク質やDNAなどの様々な分子がはたらくことで生命活動が営まれています。こうした生体分子は、周りをとりまく水分子の衝突にともなう激しい熱揺らぎにさらされながらも、自発的に構造を形成し駆動する高性能の分子機械にほかなりません。その詳細なメカニズム、すなわち、物理法則は未だ明らかにされていません。私達は生体分子と水との相互作用を変えることができる高圧力技術に着目し、世界にさきがけて高精細な像を取得できる高圧力顕微鏡法を開発してきました。この顕微鏡を用いることで、細胞内ではたらく分子機械のダイナミックな動態が次々に明らかになってきました。フォースに対する応答を通じて、生きものらしさを分子レベルで司る物理法則を明らかにするのが研究のゴールです。

世界にさきがけて開発した高精細な画像を取得できる高圧力顕微鏡。関連特許取得、市販化を通じて計測手法の普及に努めています。

生命動態物理学研究室

固体電子物理:増井 孝彦 [准教授]

超伝導体や磁性体の実験的研究

超伝導体や磁性体など、興味深い性質をもつ物質を対象とし、なぜその性質が発現するかを実験によって解明していきます。特に銅酸化物高温超伝導体の電子相図の理解と、高温超伝導と電子格子相互作用の関係を明らかにすることを目指し、輸送特性や光学特性の測定、同位体置換などの手法を用いて研究を進めます。物性は構成元素、結晶構造はもちろんですが、磁場や圧力などの外部パラメーターによっても変化するので、試料合成、測定の各段階でさまざまなアプローチ法があります。

高温超伝導体YBCOの単結晶。

固体電子物理研究室

素粒子論:三角 樹弘 [准教授]

万物の根源的要素である素粒子は「場の量子論」と呼ばれる理論によって記述されます。量子論とはミクロの世界を記述する理論体系であり、そこでは物の位置や速度などの物理量が確定しませんが、場の量子論においては粒子の存在そのものが不確定になり、粒子が無から生成されたり逆に消滅したりする驚くべき状況が生じます。本研究室では、この理論のさまざまな解析手法を提案・研究し、実際の物理現象に応用することで自然の深い理解を得ることを目標としています。特に、陽子や中性子が形成される要因となる「クォーク閉じ込め」や「質量ギャップ生成」と呼ばれる現象の理解に数理的・数値的手法を用いて挑んでいます。

場の量子論において重要な寄与をするBion配位

場の量子論・素粒子論研究室

X線天文学:信川 久実子 [講師]

X線で観る宇宙は超高温で莫大なエネルギーを放出しています。そのなかでもX線観測による低エネルギー宇宙線測定を主軸に、宇宙線の起源や宇宙線が周囲に与える影響を明らかにすることを目指し研究しています。また宇宙線に限らず、天の川銀河の星間空間で起こる様々な高エネルギー現象をX線観測を通して研究しています。さらに、2023年に打ち上げたX線天文衛星「XRISM」プロジェクトメンバーとして、衛星搭載X線CCDの開発を行っています。将来の天文衛星への搭載を目指した新型X線検出器の開発や、宇宙空間での技術実証プロジェクトも進めています。

X線で観た天の川銀河の中心領域

高エネルギー天体物理学研究室