SEMINAR

一般相対論・宇宙論研究室・大学院修士中間発表会 令和2年8月1日

講演日:2020.07.30 (Thu)

  • 宇宙

講演者

〇プログラム:
▷M1夏の学校へ向けて: 25分講演(質疑応答含む)
座長:山口大輝
13:30—13:55 中村 拓人
14:00—14:25 田中 海
14:30—14:55 高島 智昭
  休憩
▷M2総合理工マスターズ: 30分講演(質疑応答含む) 
座長:上田航大
15:15-15:45 松本 怜
15:50-16:20 村島 崇矩
16:25-16:55 竹林 蒼真

講演内容

▷M1夏の学校へ向けて

▷M2総合理工マスターズ

〇内容
▷M1夏の学校へ向けて
講演者:中村 拓人
題名 :「ブラックホール周囲の光子球と重力波の準固有振動」
概要:2015年にLIGOによってブラックホール連星の合体に伴う重力波が初観測された[1]。その後も次々と重力波イベントが観測されている。これによって本格的に重力波天文学の幕開けとなった。今、ブラックホールから放出される重力波について理解する重要性が高まってきている。重力波の理論研究は、近年では数値計算によるものが大きく発展したが、様々な近似を用いた解析的研究も進められてきた。後者関して、例えば、重力波は振動数が十分大きな極限(eikonal極限)において、幾何光学近似を用いることで光子のような無質量粒子の軌道として考えることができる。一方、ブラックホールの周囲の幾何学は光子の円軌道の集合である光子球(photon sphere)により特徴付けられる。一般的に光子の円軌道は不安定である。2019年にEvent Horizon Telescopeによってブラックホールの影が撮影されたが[2]、この影の輪郭はphoton sphereから漏れ出た光子である。実は、このphoton sphere近傍の光子円軌道の不安定性がブラックホールからの重力波の準固有振動(QNMs)と関連していることがわかっている。特に、カオスを議論する際に、カオスの強さを評価する量であるLyapunov指数を用いてQNMsと光子軌道の不安定との関係を定量的に評価する方法が提案された[3]。 しかし、このLyapunov指数を用いた方法は現在のところ静的時空の場合に限定されている。そこで、今後ブラックホール連星の合体のような興味のある動的な時空の解析に備えて、このLyapunov指数の方法を拡張できないかを議論したい。観測されている重力波が連星系によることからも、今後、この議論の重要性はますます大きくなると考えられる。以上の動機に基づいて本発表ではブラックホールの合体を記述する厳密解の1つであるKastor-Traschen解[4]についても解説したい。
[1] B.P. Abbott, et al.: Phys. Rev. Lett. 116, 061102 (2016).
[2] The Event Horizon Telescope Collaboration: Astrophys. J. 875, L1 (2019).
[3] V. Cardoso, A.S. Miranda, E. Berti, H. Witek and V.T. Zanchin: Phys. Rev. D 79, 064016 (2009).
[4] D. Kastor and J. Traschen: Phys. Rev. D 47, 5370 (1993).


講演者:田中 海 
題名:「宇宙の真空泡のダイナミクスと不安定性」
概要:宇宙初期に関する有力な理論によれば、宇宙は量子ゆらぎから誕生し、インフレーションにより急激に膨張し、そして熱いビッグバン宇宙へつながったと考えられている。インフレーションとその終了からビッグバンへのつながりは一種の真空の相転移と考えられる。また、ビッグバン後の宇宙進化の過程においても宇宙は様々な相転移をしてきたと考えられている。相転移はしばしば位相欠陥とよばれる不連続な層を生み出す。我々の知る世界にも不連続層は多く存在しており、固相と液相の境界面(異なる相を繋ぐ境界面)はその一例である。膨張宇宙の相転移に伴って生成され得る位相欠陥には、モノポール、宇宙紐(コズミック・ストリング)、真空泡(ドメインウォール)などがあり、もし存在すれば宇宙に大きな影響を与えたと考えられる。本発表では、膨張宇宙における相転移の結果生成されうる位相欠陥のうち、真空泡のダイナミクスについて考察する。まず文献[1]に基づき一般的に成り立つ公式として一般相対論における接続公式の導出について紹介する。そしてその応用として、文献[2]に基づき、偽の真空領域として泡の内部にインフレーション宇宙に対応するde Sitter時空を設定し、それを取り巻くように泡の外部に真の真空領域としてSchwarzschild de Sitter時空を設定したモデルを考える。この時空におけるエネルギー障壁の高さと宇宙の半径の関係をもとに、真空泡の古典的ダイナミクスを系統的に分類し、真空泡を含む時空全体を含む大域構造を図示する。またこの真空泡の古典的ダイナミクスから、宇宙の無からの量子論的な誕生を記述するトンネル効果の可能性について議論したい。

参考文献
[1] S.K.Blau, E.I.Guendeman, A.H.Guth Phys.Rev.D35, 1747 (1987)
[2]A.Aguirre, M.C.Johnson Phys.Rev.D72, 103525 (2005)

講演者:高島 智昭
題名:「5次元宇宙と膜宇宙~ブレーンワールドの重力~」
概要:ブレーンワールドモデルは我々の4次元宇宙が高次元時空の内部または境界の膜であるとする宇宙モデルである。1999年にランドールとサンドラムによって余剰次元が指数関数的に歪曲している5次元反ド・ジッター時空を用いたブレーンワールドモデルが発表された。20年前に発表されたモデルであるが、決して実験や観測によって否定されたわけではなく、未だ研究は完成していない。余剰次元のコンパクト化に関して、古典的なカルツァ・クライン型モデルとは際立って対照的な膜宇宙モデルは、ブラックホールの構造や宇宙誕生のしくみなど極限領域に関する今後の研究を通して、重力の理解に重要な示唆を与えてくれる可能性がある。本講演では、まず、5次元方向が歪曲しているときの5次元反ド・ジッター時空の計量を示す。次にイスラエルの接続条件と𝑍2対称性によって5次元曲率半径とブレーンの張力の関係を決める。さらに、ランドール・サンドラム模型についての重力摂動の振る舞いを考え、非相対論的な球体の線形化された重力場について述べる。そして、反対の張力を持つ2枚のブレーンがあるときに線形化されたブレーン・ディスク(BD)の重力についても説明して、最後に、5次元のシュバルツシルト・反ド・ジッター時空中のドメインウォールの運動によるブレーンワールドの宇宙論的解がどのように表されるかも紹介する。



▷M2総合理工マスターズ

講演者:松本 怜
題名:「ブラックホール時空上の不安定なベクトル場と有毛ブラックホール」
概要:一般相対論におけるブラックホールは質量・電荷・角運動量だけで特徴付けられ、恒星のような天体に比べて非常に単純な物体である。しかし一般相対論を拡張した様々な重力理論の中には、さらなる物理量(例えば、スカラー/ベクトルチャージ)で特徴付けられるブラックホールを記述する理論が存在する。本発表では、そのような有毛ブラックホールとなる可能性がある不安定なベクトル場を持つブラックホールを構築し、ベクトルチャージを持つ有毛ブラックホールについて議論する。


講演者:村島 崇矩
題名:「ブラックホールは強い宇宙検閲官仮説を支持できるのか」
概要: ブラックホールの特異点の存在自体は物理法則的視点からは問題無いが、それは初期値問題の破綻を避けるために、ホライズンにより隠されている必要がある(強い宇宙検閲官仮説)。しかしブラックホールが取り得る各パラメーターの数値の選び方によっては、特異点がホライズンに覆われず観測者に対して影響する可能性が挙げられている。本発表では強い宇宙検閲官仮説を支持する電荷を持ったブラックホールのmass-inflationを数値計算結果も含めて紹介し、同じく強い宇宙検閲官仮説を支持する特異点で曲率が発散しないRegular BHの紹介を行う。


講演者:竹林 蒼真
題名:「特異点の解消~Cosmic CensorshipとRegular black hole~」
概要:一般相対論の破たんする時空特異点は、どの観測者からも見えないように隠される(Cosmic censorship)か、取り除かれるべき(no singular)である。前者のCosmic CensorshipをReisner-Nordstrom BHで保つ為にはMass Inflationという現象が必要になって来る。一方、特異点の解消を古典的一般相対論の範囲内で実現するものはRegular black holeと呼ばれる。Regular black holeは量子重力理論の有効理論として、今日までに様々なモデルが考えられてきた。今発表では前半でCosmic CensorshipとMass Inflationについて、後半でregular black holeの様々なモデルについて紹介する。

開始時間及び場所

令和2年8月1日(土)13:30~16:55
31-401教室