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2020年度総合理工マスターズ代替発表会1

2021.02.22

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総合理工マスターズ代替発表会・理学専攻物理学分野1(一般相対論・宇宙論研究室)を以下の要領で行います。

日時:2021年2月24日(水)3限 
於:31-402教室 および オンライン
オンライン参加の方は下記Zoom URLよりご参加ください。
教室で参加の方は、マスクの着用をお願いいたします。

〇プログラム:
30分講演(質疑応答含む)
13:15--13:45 中村 拓人(M1)  司会:山口大輝(D2)
13:45--14:15 田中 海 (M1)  司会:上田航大(D2)
14:15--14:45 高島 智昭(M1)  司会:松本怜 (M2)
  
〇オンライン参加
Zoomミーティングに参加する
https://testkindai.zoom.us/j/91240778275?pwd=YkZNQStCOWpTeUhQYlVjQm5XZVlIZz09

オンライン参加の詳細は、石橋明浩までご連絡ください。

〇題目と概要

講演者:中村 拓人 
題名 : 「漸近AdS時空やNariai時空における様々な摂動に対する境界条件と準固有振動」
概要: 我々の宇宙において、現在の宇宙の加速膨張を説明するダークエネルギーは約68%、銀河の回転曲線や宇宙の大規模構造等を説明するダークマターは約27%存在し、通常の物質は約5%しか存在しない[1]。これらのダークセクターが何であるかは宇宙物理学における最大の謎の1つである。ダークセクターの有力候補として有質量ボソン場が挙げられる。宇宙物理学的な側面から有質量ボソン場を検証するには、波がブラックホールの回転エネルギーを繰り返し抜き取り増幅するsuperradiance不安定性(BH bomb)[2]が観測されればよい。AdS時空やNariai時空のように対称性が高い場合には波動方程式の厳密解が求まるが、ブラックホール時空上では厳密解を求めることができないという問題がある。このような場合に波動方程式の大域解を近似的に構成する手法として、ブラックホール近傍領域と遠方領域の解をオーバーラップ領域で接合するmatched asymptotic expansionがある。具体例として、漸近AdS時空である4次元Reissner-Nordström-AdS時空上で有質量複素荷電スカラー場の大域解をmatched asymptotic expansionで求める[3]。
また、2015年にLIGOによってブラックホール連星の合体に伴う重力波GW150914 が直接検出された[4]。ブラックホールの境界であるevent horizonと無限遠において重力波は抜け出るだけで戻ってくることはできない。この境界条件によって、準固有振動と呼ばれる急激な減衰振動を引き起こす。この準固有振動はブラックホール連星の合体後の波形に現れる。漸近平坦でない時空において、適切な境界条件を選択する問題は厄介な場合がある。具体例として、Nariai時空において物理的に動機付けられた境界条件では準固有振動を引き起こさないことを確認する[5]。
[1]. N. Aghanium, et al., Astron. & Astrophys. 641, A6 (2018).
[2]. W. H. Press and S. A. Teukolsky, Nature 238, 211 (1972).
[3]. T. Katagiri and T. Harada, arXiv:2006.1030 [gr-qc].
[4]. B.P. Abbott, et al., Phys. Rev. Lett. 116, 061102 (2016).
[5]. J. Venâncio and C. Batista, Phys. Rev. D 97, 105025 (2018).

講演者: 田中 海
題名: 「超曲面での接続公式を用いた正則ブラックホール模型の構築」
概要: ブラックホールの全体像を理解するうえで、その内部構造の理解やそれに対する議論が重要になってくる。カーニューマン系ブラックホールはホライズン内部に時空特異点を持ち、特異点は物理法則が破綻する点である。特異点は何らかの方法で置換される必要があり、物質や真空を用いて特異点を取り除いたようなブラックホールをRegular Black Holeという。本発表では特にSchwarzschildブラックホールとReissner-Nordstromブラックホールの特異点を取り除くモデルを紹介する。特異点を物質や真空に置換するために、異なる時空をシェルやドメインウォールを用いて接続する、宇宙論でよく用いられているこの手法[1][2]の応用を考える。この手法を用いることで特異点を取り除く場合の他に接続面のダイナミクスを記述することができる。Schwarzschildブラックホールは質量のみをパラメータに持ち、それによって形成される時空は事象の地平面内部に空間的特異点を持つ。この特異点は事象の地平面内部で空間的超曲面を用いてde Sitter時空と接続することで除去することができる。このように構成した正則ブラックホール模型の内部構造について解説する[3]。Reissner-Nordstromブラックホールは質量と電荷をパラメータに持ち、それによって形成される時空は内部地平面内部に時間的な特異点を持つ。この特異点は内部地平面上もしくは内部で時間的超曲面を用いてde Sitter時空と接続することで除去することができる。この時のブラックホールの内部構造について、接続面がシェルである場合を例に挙げて紹介する[4]。

参考文献
[1] S. K. Blau, E. I. Guendeman, A. H. Guth Phys. Rev. D35, 1747 (1987)
[2] A. Aguirre, M. C. Johnson Phys. Rev. D72, 103525 (2005)
[3] V. P. Frolov, M. A. Markov, V. F. Mukhanov Phys. Rev. D41. 383 (1990)
[4] J. P. S. Lemos, V. T. Zanchin Phys. Rev. D83, 124005 (2011)


講演者: 高島 智昭
題目: 「膜宇宙模型を含む反ド・ジッター時空においての宇宙論とブラックホール」
概要: 1999年にランドールとサンドラムの2人が、湾曲する余剰次元をもつ時空モデルを発表した[1]。その模型では、我々の住む4次元宇宙は、5次元反ド・ジッター時空の中で膨張や収縮をする膜のようなものとして考えられている。今日では、その膜をブレーンワールドと呼ぶようになった。ここで、ブレーンワールドモデルはランドールとサンドラムの模型のように閉じていないものだけではなく、実際には、閉じたブレーンワールドモデルなども考えることができる。そこで、本講演では主に閉じたブレーンワールドを考えることにする。本講演は前半と中盤と後半の3つのパートで構成されている。前半では、特にラプス関数を指定しない2つの5次元時空が球対称の4次元ブレーンワールドによって分けられているときの4次元ブレーンワールド上のフリードマン方程式を考える[2]。 中盤では、1998年にマルダセナが発表したAdS/CFT 対応に基づいて、5次元AdS時空と4次元ブレーンワールドのホログラフィックな関係を考える[3]。 そして、ホログラフィック原理に基づくエネルギー・運動量テンソルを考慮した4次元の修正アインシュタイン方程式や修正フリードマン方程式を求める[4]。 後半では、ブレーンワールドに局在するブラックホールを考える。厳密解を構築するために時空次元を下げ、4次元AdS C-metric上の3次元ブレーンワールドとその3次元ブレーンの中心にある小さなブラックホールの存在を確認する[5]。そのペンローズ図やブラックホール熱力学も考察する。

[1] L. Randall and R. Sundrum, Phys. Rev. Lett. 83, 4690 (1999)
[2] D. Ida, JHEP09(2000)014
[3] J. M. Maldacena, Adv. Theor. Math. Phys. 2, 231 (1998)
[4] N. R. Bertini, N. Bilic, and D. C. Rodrigues, Phys. Rev. D. 102. 123505 (2020)
[5] R. Emparan, G.T. Horowitz, R.C. Myers, JHEP01(2000)007