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近畿大学理工学部理学科物理学コース 高エネルギー天体物理学研究室

修士論文

年度 氏名 論文題目・概要
2023 青木 悠馬 XRISM搭載CCD検出器におけるイベントパターンの違いによる波高値差の原因究明とその補正
我々は 2023年9月7日に打ち上げた X 線天文衛星XRISM搭載CCD (Charge-Coupled Device) 検出器SXIのエネルギー較正を行っている。SXIではイベントパターンの違いによる系統的に異なる信号値が出力され、この現象をGoffsetと呼んでいる。本研究ではGoffsetの原因をシミュレーションを用いて究明した。また地上の較正試験データを用いてGoffsetを測定し、シ ミュレーション結果を参照してGoffsetの補正を行った。衛星搭載時および 軌道投入後に取得したデータでもGoffsetを測定し、較正試験の結果と比較した
2023 小沼 将天 X線天文衛星すざくによる超新星残骸 3C 400.2のプラズマ状態とX線未同定天体 Suzaku J1937.4+1718 の調査
超新星残骸3C 400.2は銀河系内の超新星残骸で、Chandraとすざくによる先行研究で再結合過程が優勢なプラズマが報告されている。しかしプラズマの物理パラメータは著者の間で矛盾があった。矛盾の原因はバックグラウンドの評価にあると考え、本研究では超新星残骸のスペクトルとバックグラウンドスペクトルを同時にモデルフィットすることで、バックグラウンドを丁寧に見積もった。その結果3C 400.2のプラズマは、電離過程が優勢なプラズマで説明できることがわかった。また3C 400.2の西側にX線未同定天体を発見し、スペクトル解析からその起源について議論した。
2023 河邉 圭寿 ISS曝露部搭載の超高層大気観測用X線カメラの地上試験システムの構築
高度100 km付近の超高層大気は、人工衛星 (高度300 km 以上) や気球 (高度50 km 以下) でその場観測できない高度のため、大気の中で最もデータが乏しい。我々はX線を用いた手法で超高層大気のモニタリング観測を行うため、国際宇宙ステーション (ISS) の曝露部への搭載を目指し、SOIピクセル検出器とコリメータを組み合わせた、大気観測専用の X 線カメラの開発を行っている。本研究では、SOIピクセル検出器の地上試験システムの構築と基本的な性能評価、 X線カメラ用の昇圧モジュールの性能評価、コリメータの試作品の設計・製作・実験を行った。
2023 森川 朋美 超新星残骸における低エネルギー宇宙線起源の中性鉄輝線の探査
低エネルギー宇宙線は太陽磁気圏内での直接観測は困難である一方、星形成や宇宙線加速の理解に重要である。先行研究によって、低エネルギー宇宙線と分子雲の相互作用で放射される中性鉄輝線を用いた間接測定が実証されている。本研究は銀河中心に対して⻄側にある8つの超新星残骸について中性鉄輝線の系統探査を行い、G304.6+0.1とG346.6‒0.2 からおよそ3σの有意度で中性鉄輝線を検出した。その起源として低エネルギー宇宙線の可能性が最も高い。中性鉄輝線がどのような環境で強く放射されるのか手がかりを見出すため、中性鉄輝線が探査された他の超新星残骸と合わせて、中性鉄輝線の光度と他の観測量との間の相関関係を調査した。

卒業論文

年度 氏名 論文題目・概要
2023 福田 開大 XRISM 衛星搭載軟 X 線撮像検出器 SXI の初期運用における健全性評価
本研究では XRISMに搭載した軟X線撮像検出器SXIの軌道上での健全性を調査することを目的とする。初期運用で得た軌道上データを解析し、既に健全性が確認できている衛星熱真空試験のデータとの比較を行った。その結果、ペデスタルは安定しており、カウントマップからは全面での正しい受光が確認でき、X線スペクトルには受光したX線の波高値が正しく記録されていた。
2023 木山 穂乃香 X線分光撮像衛星XRISMによる超新星残骸N132Dを用いたエネルギー較正精度の調査
X線天体のデータを解析する際は、X 線検出器の出力信号値を入射X線のエネルギーに変換するエネルギー較正が必要である。本研究は、2023年9月に打ち上げられたX線分光撮像衛星XRISMのCCD検出器における、ゲイン関数のエネルギー較正精度の調査を目的とする。CCD検出器で観測した超新星残骸N132DのX線スペクトルを解析し、ゲイン関数で得られるX線エネルギーと文献値の比較を行った。
2023 小川 慧斗 X線天文衛星NuSTAR によるSgr A*からの硬X線放射観測
本研究では、天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール Sgr A*の静穏期における硬X線のスペクトルを調査した。米国の衛星「NuSTAR」が2012年7月から 2022年4月に取得した75の観測データを用いて、X線画像とライトカーブの解析を用い、静穏期のデータを抽出した。高統計な硬X線スペクトルをべき関数モデルでフィットし、フラックスを測定した。
2023 桒野 慧 宇宙X線による超高層大気の密度測定に向けた観測効率の検証とコリメータ開発
我々は、宇宙X線の大気減光を観測して高度100 km付近の超高層大気の密度を測定するプロジェクトを進めている。SOIピクセル検出器を国際宇宙ステーションに搭載し、コリメータと組み合わせることで高度毎の密度分布を測定する計画である。本研究ではシミュレーションを用いて、荷電粒子の強度によって実観測時間とX線検出効率がどのように変動するかを計算した。またコリメータの試作品の設計も行なった。
2022 牧野 耕輔 「すざく」衛星による銀河系の中心領域における鉄輝線のドップラー偏移の調査
銀河系の中心領域には、拡がったX線放射が存在している。その起源が、X線を放射する星の集まりか、拡がったプラズマなのかは決着がつい ていない。拡がったX線放射には、鉄の特性X線が付随している。もし星の集まりが起源ならば、鉄の特性X線のドップラー速度は銀河の回転曲線と一致すると考えられる。そこで「すざく」衛星のデータを用いて、銀河系の中心領域で鉄の特性X線のドップラー偏移とその銀経分布を 測定した。
2022 岸本 拓海 ISS上での大気X線観測へ向けたSOIピクセル検出器の開発と軌道上バックグラウ ンドの推定
我々は、国際宇宙ステーション(以降 ISS)の曝露部にSOI ピクセル検出器「XRPIX」を取り付け、地球超高層大気を観測するプロジェクトを計画している。本研究では、ISS軌道上の非X線バックグラウンドを推定した。またノイズ軽減の観点で、バックバイアスおよび露光時間によってXRPIXの1ピクセルイベントの割合がどのように変化するかを調査した。
2022 出口 奈侑 X 線天文衛星すざくによる超新星残骸 Kes 75 における鉄の特性 X 線の調査
Kes 75は、Chandra 衛星による先行研究で電子温度が1–2 keV のプラズマが見つかっているが、著者によって鉄の特性X線の有無に違いが あった。本研究ではすざく衛星を用いて Kes 75の鉄の特性X線を調査した結果、有意な鉄の特性 X 線は検出されず、上限のみ測定した。また0.6–9.0 keV のスペクトルは、低温の電離平衡プラズマと高温の電離優勢プラズマで説明できた。
2022 伊藤 耶馬斗 X線分光撮像衛星XRISM搭載CCDカメラXtendの環境試験におけるペデスタルの調査と撮像モード間のX線フラックスの比較
本研究では、XRISM衛星の環境試験で取得したCCDデータのペデスタルを解析し、試験によってCCDに問題が生じていないことを確認した。さらに、異なる撮像モード間でX線フラックスの測定に矛盾がないか調査し、露光時間の長い撮像モードで X 線カウントレートが低くなることを見出した。その原因を検証する ためシミュレーションを行なった。
2022 老田 凱 次世代 X 線天文衛星用SOIピクセル検出器の実験システムにおけるノイズカットトランスの導入
我々は、SOI ピクセル検出器「XRPIX」の開発を行っている。研究室の実験システムでは、同じ温度や駆動電圧でも、日によってペデスタルの幅 が変動する問題が起きていた。我々はその原因が電源ラインから混入するノイズの影響であると考え、実験システムにノイズカットトランスを導 入した。
2021 河邉 圭寿 次世代X線天文衛星用SOIピクセル検出器の動作条件の最適化
次世代X線天文衛星用 SOI (Silicon-On-Insulator) ピクセル検出器「XRPIX8」では、X 線光子の入射で生成されるアナログ信号が前段アンプを経て、ADCでデジタル信号へと変換される。私は、前段アンプとADCの出力オフセット電圧を調整し、エネルギー分解能が最も良くなる条件を調査した。
2021 毒島 雄一郎 次世代X線天文衛星用SOIピクセル検出器の実験システムの構築及び素子の不具合について
我々はX線ピクセル検出器「XRPIX」の開発を行っている。近畿大学で「XRPIX」の評価実験 を行うため、我々は実験システムを構築した。本研究では、構築した評価システムの概要を報告する。また、評価実験中「XRPIX」 に起きた不具合とその原因調査の結果及び対策案について報告する。
2021 青木 悠馬 X線分光撮像衛星XRISM搭載CCD素子におけるGoffsetのシミュレーション
XRISM用X線CCDでは、1 ピクセルイベントに比べ、複数ピクセルにまたがったイベントの方が波高値が高くなる現象 (Goffset)があり、低エネルギー側ほど波高値の差は大きくなる。ノイズが Goffset に影響を与えているという仮説のもと、我々はシミュレーションを用いてノイズとGoffset の関係を調査した。
2021 神農 夕奈 X線天文衛星すざくによる超新星残骸3C 396からの鉄輝線の発見
本研究では、X線天文衛星すざくを用いて超新星残骸 (SNR) 3C 396からの鉄輝線を測定し、SNRの高温プラズマ由来と考えられるHe状鉄イオンからの鉄輝線を発見した。またSNRの高温プラズマは2温度で説明できることがわかった。それぞれ星間物質と爆発噴出物に由来すると考えられる。
2021 森川 朋美 超新星残骸における低エネルギー宇宙線起源の中性鉄輝線の探査
低エネルギー宇宙線は太陽磁場の影響を受けるので太陽系内での直接観測は困難である。星間物質中の鉄原子が低エネルギー宇宙線によって電離されて放射する中性鉄輝線は、低エネルギー宇宙線の新たな観測方法である。私はX線天文衛星すざくを用いて、4つの超新星残骸で中性鉄輝線を探査した。
2021 釜谷 智哉 X線分光撮像衛星XRISM搭載CCD検出器における撮像モードごとの性能評価
我々は、2022年度打ち上げ予定のX線天文衛星XRISM搭載 CCD 検出器の開発を行っている。私は、筑波宇宙センターの地上試験で取得した衛星搭載品のデータを用いて2 つの撮像モード、すなわち、全領域を読みだすnormal modeと1/8 領域のみを高速で読み出す1/8 window modeの性能を評価した。
2021 八橋 佑樹 次世代X線天文衛星用SOIピクセル検出器におけるイベントパターンを用いた電子雲半径の推定
検出器にX線が入射すると光電吸収によっ て電子の塊 (電子雲) が生成される。電子雲半径は各イベントパターンのカウント数の比 (イベント比) に影響を与える。そこで私はX線イベントを再現するシミュレーターを作成し、実験とシミュレーションそれぞれのイベント比を比較することで電子雲半径を推定した。
2021 小沼 将天 X線天文衛星すざくによる超新星残骸3C 400.2のプラズマ状態の調査
超新星残骸3C 400.2は、先行研究によって再結合優勢プラズマの存在が指摘されているが、測定されたプラズマの物理パラメータは、著者によって大きな相違があった。本研究ではすざく衛星のデータを用いて、バックグラウンドを注意深く評価した上で、3C 400.2のプラズマ状態を調査した。