next up previous contents
: ブロッホ方程式 : NMRの原理 : 歳差運動   目次

回転磁場

静磁場(磁束密度 $\vec{B}_0=(0,0,B_0)$)に加え、回転磁場 を与えよう。回転する磁場の磁束密度は
$\displaystyle \vec{B}'_1 =
-B_1\left(\cos \left(\omega_{\rm rf} t - \phi \right),
- \sin \left(\omega_{\rm rf} t - \phi \right), 0 \right)$     (11.2)

とする。`` $'$ ''は回転実験室系で見ていることを表わしている。 実験室系における$\vec{B}_0$$\vec{B}'_1$の和は早い運動をしており、 式 11.1を解くことは困難である。しかしながら、角周波数 $\omega_{\rm rf}$で回転する回転座標系で系を見れば、系のダイナミクスは 簡単になる。磁場は静止して見え、対応した磁束密度は $\vec{B}_1 =(- B_1 \cos \phi, -B_1 \sin \phi,
B_0 -\omega_{\rm rf}/\gamma)$となる。 $\vec{M}$はこの実効的な磁場の回りに回転し、そのラーモア周波数は $\gamma \sqrt{ B_1^2 + (B_0 - \omega_{\rm rf}/\gamma)^2}$ となる。

図: 回転座標系から見た回転磁場。対応した磁束密度を 表わす式は $\vec{B}_1 =(- B_1 \cos \phi, -B_1 \sin \phi,
B_0 -\omega_{\rm rf}/\gamma)$ である。
\includegraphics[width=5cm]{ns_v_3.eps}

ラーモア周波数と同じ角速度を持つ回転磁場 $\omega_{\rm rf} (= \omega_0)$ が与えられたとしよう。角速度 $\omega_{\rm rf}$の回転座標系では $\vec{M}$ $-(\cos \phi, \sin \phi, 0)$を回転の軸として 角速度 $\omega_1=\gamma B_1$で回転する。仮に、$t_{\rm p}$後に回転磁場が なくなったとしよう。最初 $(0,0,M)$にあった$\vec{M}$は 角度 $\beta = \omega_1 t_{\rm p}$だけ傾くことになる。 $\beta = \pi/2$な場合、このような回転磁場は$\pi/2$-パルス (90$^\circ$-パルス)と呼ばれ、$(0,0,M)$は回転座標系のx-y面内の $(M\sin \phi, -M\cos \phi, 0)$になる。従って、このようなパルスは しばしば、 $90^{\circ}_\phi$と書かれる。特に $90^\circ_0$ $90^\circ_{\pi/2}$ $90^\circ_{\pi}$ $90^\circ_{3\pi/2}$は、それぞれ $90^\circ _{\rm x}$ $90^\circ_{\rm y}$ $90^\circ_{\rm -x}$ $90^\circ_{\rm -y}$と書かれる。また、$\beta = \pi$の場合は $\pi$-パルス (すなわち, 180$^\circ$-パルス)と呼ばれ、$\vec{M}$$-\vec{M}$に変換する。

図 11.4: 高周波パルス. (a) 90 $^\circ_{\rm x}$-パルスがy軸方向の 磁化に変換する。 (b) 180 $^\circ_{\rm x}$-パルスが磁化の向きを変える。
\includegraphics[width=8cm]{ns_v_4.eps}

次のような振動する磁場

\begin{displaymath}
-2 B_1\left(\cos \left(\omega_{\rm rf} t - \phi \right), 0, 0 \right)
\end{displaymath}

が回転磁場の代わりに使われることが多い。以下の恒等式が成り立つので、

\begin{eqnarray*}
&&
-2 B_1\left(\cos \left(\omega_{\rm rf} t - \phi \right), 0...
...ight),
-\sin \left(\omega_{\rm rf} t - \phi \right), 0 \right),
\end{eqnarray*}

振動する磁場は角速度 $\omega_{\rm rf}$で 時計回りと反時計回りに回転する二つの磁場の重ね合わせと 考えることができる。 $\omega_{\rm rf}$時計回りに回転する磁場は 回転座標系において静止しているように見えるが、反時計回りに 回転する磁場は $2\omega_{\rm rf}$の角速度で回転しているように 見える。反時計回りに回転する磁場の効果は、通常のNMR実験の条件では $t_{\rm p} \sim 1/(\gamma B_1) \gg 1/(\gamma B_0)
\sim 1/\omega_{\rm rf}$なので、平均されてなくなる。 従って、回転磁場の代わりに振動磁場を用いることができる。



Administrator 平成25年1月3日