固体電子物理研究室

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最近の研究内容の紹介

Y1248表面の超高分解能角度分解光電子顕微分光

YBa2Cu4O8 (Y1248) は, 化学量論的組成をもつこと,CuO二重鎖構造を持つことなど, 数ある銅酸化物高温超伝導体の中でも際立った特徴がありますが, 単結晶の作製が難しく,注目されてきた割には研究が進んでいません。 この研究では乾君(平成27年度卒)が卒業研究で作製したY1248単結晶を, 広島大学,イギリス放射光施設,ドイツ放射光施設が共同で光電子分光(ARPES)測定を行いました。

Y1248を伝導面に沿って割る(へき開)と,2種類の表面が露出しますが, この研究では,ナノスケールの空間分解能と角度分解光電子分光(ARPES)の実験自由度を融合した 「機能的ナノARPES装置」によって,Y1248の試料表面に露出した異なる原子面を 空間的に選別し測定を行うことで,Y1248本来の性質に関わる電子の振る舞いを明らかにしました。

(H. Iwasawa et al. , Phys. Rev. B (2019))

高温超伝導体の電子ラマンスペクトルの超伝導応答

超伝導状態では電子状態に超伝導ギャップが開くのですが, 銅酸化物超伝導体では,擬ギャップとよばれる超伝導ギャップによく似たギャップが,超伝導転移温度(Tc)より高温から出現します。 この正体を突き止めるため,長年にわたって研究が続けられています。

電子ラマンスペクトルの観測では,超伝導ギャップは擬ギャップと区別がつかない状態が続いていました。 超伝導ギャップの大きさは基本的にはTcと強く相関するはずなのですが, Zn置換などでTcを下げても,スペクトルに現れるギャップの大きさはTcとは無関係に 擬ギャップによって決まっているようにしか見えませんでした。 しかし,スペクトルをよくみると,超伝導応答が擬ギャップに邪魔されているようでした。 邪魔されないとき,すなわち超伝導ギャップが擬ギャップよりも大きくなる試料があれば いいと考えていたのですが,それが最近,CuO2面外乱れを制御することで得られるようになりました。 これによって,超伝導ギャップが擬ギャップよりも大きい時には,電子ラマンスペクトルの超伝導応答(超伝導ギャップ)が Tcにスケールして変化することが確認されました。

(N. Murai et al. , Phys. Rev. B (2015))

高温超伝導体の酸素同位体置換効果

水銀などの金属超伝導体では超伝導転移温度が構成する原子の重さと関係しています。 超伝導状態では,金属電子は結晶格子の振動を介して超伝導対を形成することで,ボーズ凝縮するからです。 銅酸化物超伝導体でも,格子振動の役割は何なのかが高温超伝導の発見当初から問題となって来ました。

実験では結晶中の酸素を同位体で置換し,Tcの変化を観測することになります。 酸素を確実に置き換えることはもちろんですが,酸素量が電気伝導面であるCuO2面の伝導キャリア濃度(p)も 変化させるため,丁寧に酸素量を制御する必要があります。また酸素以外の元素置換もキャリア濃度以外の 要因でTcを変えることがあるため,避けることが望まれました。 これらを徹底的に考慮した研究は,高温超伝導の発見から随分経っても殆ど無かったのです。 そこで,代表的な高温超伝導体であるYBa2Cu3O7-δ (YBCO)で酸素量を制御して, キャリア濃度によって同位体置換によるTcの変化の割合が変化すること,また別の銅酸化物高温超伝導体 LSCOで特に異常な同位体効果があると指摘されているp=0.125付近で,YBCOでは異常に大きな同位体効果は 無いことを明らかにしました。

(K. Kamiya et al. , Phys. Rev. B (2014))