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分極と電束密度

誘電分極を起こした絶縁体内から分極の方向に長さ$\ell$、断面積 $S$の円柱を切り出したと考える。この時、この円柱の断面に 現れる電荷の密度が$\sigma$になったと仮定する。 正負の電荷の重心のズレを$\vec{u}$、また正の電荷の密度を$\rho$とす ると、 $\sigma = \rho \vert\vec{u}\vert$になる。ここで 大きさが$\sigma S l$で向きが分極の方向を持ったベクトルを 考え、この円柱の「双極子モーメント」と呼ばう。 分極の強さを表すためには、単位体積あたりの 「双極子モーメント」を用い、これを「誘電分極」、「電気分極」 または「分極ベクトル」と呼ぶ。分極ベクトルは、
$\displaystyle \vec{P}=(\rho \vec{u}S l)/(S l) = \rho \vec{u}$     (3.29)

である。電界が位置の関数だったり、物質が一様でなかったりする場合には、 $\vec{P}$は位置$\vec{r}$の関数のなることに注意。

図 3.14: 誘電分極と分極ベクトル。
\includegraphics[width=8cm]{fig69.eps}

誘電体中の閉曲面$S$を考え、分極が生じた場合その曲面の内側から外側に動く電荷 を考察する。先ほどの$\vec{u}$を用いると、 $\int_S \rho \vec{u}\cdot d\vec{S}$ となる。$\vec{P}$の定義により、この電荷は $\int_S \vec{P}\cdot d\vec{S}$ となる。この閉局面$S$内の電荷は最初ゼロ であったので、分極が起こった後に残る電荷$Q_P$

$\displaystyle Q_P = - \int_S \vec{P}\cdot d\vec{S}$     (3.30)

となる。分極は正負の電荷の重心のズレ、 または電気双極子を持った分子の向きがそろう ことによって生じるので、分極電荷はかならず正負が組になって 現れ、物質全体ではその和はゼロになる。それに対して分離できる通常の電荷を 真電荷と呼ぶ。

3.35に対してガウスの定理を適用すると、分極電荷の密度 $\rho_P(\vec{r})$と分極ベクトル$\vec{P}$の間の関係が得られる。

$\displaystyle \rho_P (\vec{r})= - \vec{\nabla}\cdot \vec{P}$     (3.31)

物質中のガウスの法則では、分極電荷も考慮しないといけない。微分形で書くと、

\begin{eqnarray*}
\vec{\nabla}\cdot \vec{E}(\vec{r})
= \frac{1}{\varepsilon_0}\{ \rho(\vec{r}) + \rho_P(\vec{r})\}
\end{eqnarray*}

となる。$\vec{P}$を使って変形すると、

\begin{eqnarray*}
\vec{\nabla}\cdot \{\varepsilon_0 \vec{E}(\vec{r}) + \vec{P}(\vec{r})\}
= \rho(\vec{r})
\end{eqnarray*}

となる。物質中の電束密度ベクトルとして、

\begin{eqnarray*}
\vec{D}(\vec{r}) = \varepsilon_0 \vec{E}(\vec{r}) + \vec{P}(\vec{r})
\end{eqnarray*}

を定義すると、物質中のガウスの法則は、
$\displaystyle \vec{\nabla} \cdot \vec{D}(\vec{r}) = \rho(\vec{r})$     (3.32)

となり、真空中と同じ形になる。

通常、分極は電界に比例する。また、多くの物質(等方性物質)では 電場に比例するだけでなく、方向も一致する。すなわち、

\begin{eqnarray*}
\vec{P}=\chi_e \vec{E}
\end{eqnarray*}

となる。ここで、$\chi_e$をその誘電体の電気感受率と言う。 $\chi_e$を使うと、

\begin{eqnarray*}
\vec{D}=( \varepsilon_0 +\chi_e) \vec{E}
\end{eqnarray*}

となり、電束密度は電界に比例することになる。そこで、
$\displaystyle \varepsilon = \varepsilon_0 +\chi_e$     (3.33)

を定義して、その物質の誘電率という。当然、
$\displaystyle \vec{D}= \varepsilon \vec{E}$     (3.34)

となる。また、真空の誘電率$\varepsilon_0$$\varepsilon$の比を比誘電率と 呼ぶ。




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Administrator 平成25年7月6日